13章 再会 (1/4) ~ 青い爪の踊り子

水差しを握るティミトラの指には、青いマニキュアが塗られている。酒をテーブルの上に置くと、かがんでもう一度ララを抱きしめた。

「大きくなったね。元気そうでよかった」

ララは母親の首筋に頬ずりした。黄金色に染まった長い髪から、タバコと混じりあった香水の匂いがした。

記憶の隅で、ほとんど消えかかっていた感触が、よみがえってくる。昔はかがんで抱きしめられると、懐にすっぽり収まってしまったのに、今では体が大きくなってしまって収まりきらなかった。ずっと自分は背が小さいと思っていたけど、ちゃんと成長していたのだ。

最後に会ってから、もう八年も経っている。でもこうして抱きあっていると、魔の森で会っていた遠い昔のことを思い出し、自分がまたその頃と同じ、取り残された小さな子供に戻ってしまったような気がした。

「ママ……」

「なあに?」

三年間手紙をくれなかった理由を聞きたかったが、どんな答えが返ってくるのか怖くて聞けなかった。それに、それよりも先に伝えなければならないことがあるのを思い出した。

「半年くらい前にね、魔の森で……おばあちゃんが死んだの」

顔を離して見あげると、涼しげでどこか空虚な感じのする瞳が、静かに見おろしていた。暗い表情だったが、泣きそうな顔とも違う。

「悲しくないの?」

「母親が死んだときは泣かなきゃいけないの?」

刃物のようにとがった声だった。

「涙が出ない。悲しくもない」

カラスとアシュラムはかける言葉がなくて黙っている。

やっぱりママとおばあちゃんは不仲のままなんだ。思い出して涙があふれるほど幸せな思い出が、ママにはないのかもしれない。

「いけないことじゃないと思うよ」

ララは慰めるようにそう言った。ティミトラは愛しげに娘の髪を手ですいて、

「ララはいい子だね」と言った。

それからティミトラがララの隣の席につくと、アシュラムはさっそく、ここに来るまでのいきさつを大まかに説明しはじめた。ララたちがヴァータナまで母親を訪ねに来たことや、そこで王の怒りをかって危うく殺されかけたこと、監獄塔から脱獄してきたこと。兵に追われたことは話したが、ティミトラの仲間だった氷男や眼帯の男と戦ったことには触れなかった。

ララはスカートの縫い目の中に隠してあった赤い石をティミトラに渡した。

「母さんがこんな石を持っていたなんて知らなかった」

指でつまんで夕日のような輝きをじっと見つめたあと、いきなりララにむかって「ちょっと二階にあるタバコ取ってきてくれない?」と言った。こんなときになんで急に? と思ったが、ララは素直に階段をのぼっていった。疲れているのか、少し立ちくらみがする。

ティミトラは娘が席を外すのを見届けると、アシュラムに確認した。

「本当に私がこの石をもらっていいんですか?」

「これはもともとあなたのものです」

「このあとどうするんです?」

「トゥミスに行って、陛下のいとこを誘拐するよう指示した犯人をさがします。ジャングルや湖畔で襲ってきたのは、トゥミス人に雇われたマヌ人の手下でした。その手下が、クレハ様をトゥミスにむかわせたと言ってましたから、黒幕はおそらくトゥミスにいるのでしょう」
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