13章 再会 (4/4) ~ 告白

桟橋には小型の漁船が何隻か停泊していた。その近くに、板ぶきの屋根に石の重しをのせた粗末な掘っ立て小屋が何軒か並んでいる。

カラスは一番手前の小屋の中をのぞき、ララを手招きした。入り口にカンテラとマッチがかかっていたので、それに火をつけた。マッチが湿気っていたせいで、何本かすってやっとつけることができた。二人のまわりがこうこうと照らされるかわりに、それ以外の闇はいっそう濃くなる。小屋の中には、塗装の剥げた壊れた小舟が二隻あり、片方には魚捕りの網や、浮きや、帆の切れ端などが入っている。もう片方の小舟のほうはもっと傷んでいて、ほとんど砂に埋まっていた。ほかには錆びた銛や釣り竿などが壁に立てかけてある。

カラスは砂の上にカンテラを置くと、濡れた服を脱いで、帆の切れ端で体を拭いた。拭きながら、別の切れ端をララに渡した。ごわごわしているし、とても清潔とは言えない。だが旅をつづけているうちに、ララもカラスと同じくらい細かいことは気にしなくなっていた。

ララは服を脱ぐとき裸を見られないように、「あっちむいてて」と言って、カラスに背をむけさせた。でも、自分はちゃっかり後ろからカラスの体を観察している。

腕や背中、太ももに、無数に走った細い傷痕がカンテラの明かりで白く光っている。背中には監獄塔でつけられた新しい傷痕と、古い火傷の痕があった。アシュラムと刀を振るっていたおかげで、前より少したくましくなってる。緊張して期待しながら見守っていたが、下着を脱ぐ前に帆を腰に巻きつけたので、全裸にはならなかった。

脱いだ服はしぼって小舟の縁にかけ、二人は帆だけ体に巻いて、少しでも暖をとれるよう身をよせあって座った。おたがい無言のまま手と手を重ね、指を絡ませて、わずかな隙間風で心許なく揺れるカンテラの火を見つめている。

壁に、一つにつながった大きな黒い影が映っている。

静寂の中で、波音だけが響いていた。

しばらくすると、カラスはひとりでに、自分の体についた傷について話しはじめた。

「前に顔の傷のこと聞いてきたことあったよな。これ、本当は俺の伯父さんにつけられた傷なんだ。体にある傷もそうだ。背中の火傷は十歳のとき、住んでた伯父の屋敷から脱走しようとして捕まったときに、罰として焼けた火掻き棒を押しつけられた。顔の傷は、伯父に殺されそうになったときつけられた」

そしてせきを切ったように、自分の生い立ちや、これまでどんな風に生きてきたか語りだした。

両親にあまり愛されなかったことや、伯父に犯されたこと、屋敷から脱走しようとした夜のこと……。

「すごく寒かった。森の中はまっ暗で、北風がびゅうびゅういってて、狼の遠吠えなんかも混じってた。俺は靴も履いてなくて、地面におりた霜のせいで、足の裏が痛かった。木立のむこうで、俺を探してる松明が、人魂みたいに動いてた。走りまくって、やぶの中に隠れたりしたけど、結局は捕まって──……」

それらの話は止めどなく、起こった順序も系統もばらばらだった。呪術を使って人に血ヘドを吐かせた話の次に、旅先のおもしろ話をしたり、最近の話をしていたかと思えば、いつのまにか子供の頃の話にすり替わっていたりする。瀕死の病人のような顔をしていたか思うと、すぐに思い出し笑いをはじめている。

カラスはなにかに追い立てられるように早口で話しつづけた。言いたいことがありすぎて、口のほうがそれに追いついていないという感じだった。なのでララは聞き返したり、自分の感想をあいだにはさんで話の腰を折ったりせずに、横であいづちを打つだけにした。今まで寝た女性や男性の話をした流れで、ティミトラと寝た、という話になっても、ララは静かにうなずいただけだった。カラスのほうは自分の内に溜まったものを吐き出すのに夢中で、ララの顔色をうかがうことすら忘れていた。一つの話が終われば、またすぐに別の話をはじめ、それまでの話はどこかへ行ってしまっている。

ララは母親の忠告通り、カラスが自分のことをだましていたと知った。それでも、カラスがほかのだれにも話さないようなことを、自分にだけ打ち明けてくれたことが嬉しかった。カラスは普段からよくしゃべるが、その場限りのくだらない話ばかりで、自分自身のことはあまり掘りさげて語りたがらない。聞いてもふざけてしまって真剣に答えてくれないのだ。

でも、今はなにかが胸の奥の壁を打ち壊し、なにも聞かれなくても洗いざらい話している。長いあいだ溺れていた人が、やっと水面から顔を出して外の空気を吸いこむように、必死だった。そんな様子を見ていたら、とても怒る気になどなれなかったのだ。
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