15章 ホタル草 パート2 (1/8) ~ お化け屋敷と小さな鳥

そこは広々とした居間だった。色あせた綿のラグの上に、低いテーブルやソファーが並んでいる。ソファーは破れ、テーブルの上には燭台や灰皿がのったままほこりが降り積もっている。床にはネズミのフンらしきものも落ちている。

「日当りはいいのね。綺麗にしたら、よさそうな部屋じゃない」

マヤが部屋の中を興味津々で歩きまわっているあいだ、アシュラムは窓辺に置かれた籘製の揺り椅子に身をあずけていた。

ここでの思い出はないのに、なんとなく懐かしい気分になる。棚や引き出しの上には、キリンや象の木彫りの人形、大きな巻貝、寄木細工の小物入れなどが飾ってあった。青銅の香炉には灰が残っていて、部屋の隅に置かれた観葉植物は立ち枯れしている。ここには両親が自分たちの趣味で集めたものが、そのままの形で残っていた。今までここに手をつけずにいたのは、そういったものを下手に動かしたくないからでもあった。

だが、歳月はほこりのように降り積もり、昔のまま静止してしまった空間を、少しずつ劣化させていた。時がゆっくりと人の命を奪っていくように、この家も緩やかに死にむかっている。主を失って朽ち果てようとしている家というのは、うすら寂しいものだ。でも、なぜか、この静けさの中に浸りきっていると、心が落ち着く。とても安らいだ気分だ。

開け放った窓から、新鮮な空気が入ってくる。マヤは水盤に入った白い砂をつかみ、指のあいだから砂時計のように少しずつ落としはじめた。

「この音、なに?」

話しかけられて、うつらうつらしかかっていたアシュラムは意識を取り戻した。前の晩、配置換えがあったばかりの夜勤の兵士たちの持ち場を見てまわっていたので、あまり眠れていないのだ。

窓枠の上あたりから、ガサガサ音がした。

「ああ、これは鳥だよ。そこに巣がある。この前来たときに気づいたんだけど、かわいそうだから放って置いたんだ」

それを聞いてマヤがほんの少し笑ったような気がした。

「おかしい?」

「ううん。やっぱり変わってないなあって思って。最初会ったときは、なんだか凛々しくなちゃってて驚いたけど、アシュラムはアシュラムだね」

それから今度ははっきり笑って言い足した。

「昔は情けなかったのにね」

そうなのだ。リュージュの屋敷にいた頃は、よく瞳の色のことでほかの使用人の子供にからかわれて、泣かされてた。本来なら、従者としてリュージュを守らなければならない立場なのに、逆にリュージュのほうがいじめっ子たちを追い払って守ってくれたものだ。泣きべそをかいてるところをマヤに見つかると『どうして言い返さないの?』と怒られて、そっちのほうがいじめっ子より怖かったこともある。

ヴァータナに来たばかりの頃は、リュージュから悪い意味で『目つきが鋭くなった』と言われた。改めて指摘されたのは初めてだったが、別に意外ではなかった。戦地では人を殺して手柄をあげた。はじめのうちは何人か数えていたが、すぐに数えるのをやめてしまった。

それでも小鳥は助ける。

「今じゃ、筋肉バカって呼ばれてる」

「ああ、なんかわかるような気がする」マヤは真顔でうなずいた。

「今のは嘘だよ」

あわてて訂正すると、彼女は笑った。

「なんの鳥なの?」

「くわしくはわからないけど、インコの仲間じゃないかな」

マヤはテラスに出て、外から巣を確かめようとした。
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