15章 ホタル草 パート2 (1/8) ~ お化け屋敷と小さな鳥

 

その一悶着があったのは休日の早い時間だったので、アシュラムはいったん街に引き返すと、とりあえず最低限必要な道具を集めて、今度は自力でテラスの組み立てに取りかかった。

昼過ぎになって、一緒に塗装をすると言っていたマヤが、バスケットを持ってやってきた。

「あれ? それ大工さんにやってもらうんじゃなかったの?」

マヤはテラスの骨組みに釘を打ちこんでいるアシュラムを見て言った。

「そのつもりだったけど、今朝クビにした」

「なんで!?」

「鳥の巣を取ったから」

アシュラムはなにもなくなってしまった軒下に目を遣った。

客観的に聞いたら、馬鹿みたいな台詞だ。でもマヤは笑わなかった。

「かわいそうね」

「ああ」

うなずくと、少しさがってテラス全体を見まわした。

「大体形になった」

なかなか上手いもんだ。戦地では、やぐらを組んだり橋を架けたりしたこともあるし、大工仕事も結構できるのだ。

「すごいじゃないっ」マヤは驚いたように言い、「ちょうどきりのいいところで、少し休憩したら? これ、お昼」

と、持ってきたバスケットを差しだした。中には、青パパイヤの千切りと、鳥の串焼きと、蒸しパンとパイナップルジュースが入っていた。

「なんかやってもらってばっかりで悪いな」

「いいのよ、気にしないで。そうやってすぐ謝るの、悪い癖よ」マヤは微笑んだ。

昼食を食べたあと、家の外壁にヴァータナ伝統のこげ茶の塗料を塗った。かんかん照りで、日射病になりそうな陽気だ。蝉がうるさく鳴いている。

壁の両脇から塗りはじめていって、真ん中で隣りあったとき、マヤが手を止めて言った。

「アシュラムの目、きれい」

間近から見つめられて、ドキッとした。昔言われたのと同じ言葉、同じ口調だった。子供のころ、みなが欠点のように言っていた緑色の瞳を、マヤはとても気に入って、自分も欲しいと言っていた。そう言ってもらえたのが、ただ嬉しかったのを覚えてる。だがそのときは、今までにはない動揺を感じていた。

マヤの目は切れ長で、アイラインを引いていないのに、うっすら引いているように見える。まつ毛は黒く濃く、瞬きするたびに風が起きそうだ。白目はまっ白で、瞳は黒曜石のようにまっ黒だった。

「死んだらもらっていい?」

「いいよ」

マヤの愛らしい唇に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。アシュラムはそれに釘づけになりながら、古い記憶を手繰りよせた。合い言葉を思い出すように。

「マヤの目も?」

するとマヤはなにか別のことに気づいたように、あらぬ方を見た。それから「ちょっと塗り残し」と言って、小さな塗り残しを見つけて塗りつぶすと、何事もなかったかのように離れて別の壁を塗りはじめた。

アシュラムは仕方なくさっきのつづきを塗りながら、不安になって、離れていってしまったマヤの様子を何度もうかがった。

ようやく目があうと、マヤは何気ない口調でこう言ってきた。

「なにか用?」

胸を締めつけられるような気がした。
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