15章 ホタル草 パート2 (6/8) ~ どうしても、やり遂げたいこと

「どなたも不審には思われないのですか?」

老人たちはむっつり顔をしかめている。

どうやら俺に賛同する者はいないらしい。

アシュラムはリュージュに熱い視線を送った。

『不審に思う』と言うんだ。

だが、リュージュは上座で聞いているだけで、なにも言わない。だれとも目をあわさず、料理にも一口も口をつけていなかった。高官たちににらまれるのを恐れて心変わりしたのか?

シャンタンが高官を代表するように口を開いた。

「政治では、人と人との信頼関係がなによりも重要だ。政治家は、兵士のように敵陣に飛びこんで悪党を斬り殺せばいいというものではない。事前の根まわしや、人脈作りが重要なのだ。逆を言うと、そういうものがなければ、どこでも殺しあいの戦争になる」

高官たちはうなずいた。

「話をすり替えないでください。信頼とは、信頼できる行動の上に成り立つものです。信頼できないものを信頼するのは愚かだ」

「我々には何世代にも渡ってつちかってきた人脈がある。武家出身で政治の世界では新参者のあなたにはわかりますまい。私には地方の監査を厳しくするのは得策とは思えん。その土地にはその土地の流儀というものがある。それも知らず、いきなりそこに縁もゆかりもない人間を送っても、反感を買うだけだ。ちょうど今のあなたのように、思うように動けない。地方にあたえられている自治権を侵害するようなことになれば、マチュルクのときのように反乱が起きないとは限らない。仮にヒカリ草の花畑が見つかっても、長官が逮捕に抵抗して、挙兵するかもしれない。お目付役が欲しいなら、そこそこの人脈を持っていて、その土地のことを知りつくした者に頼むことだ」

「あなた方の人脈は馴れあいです」

今こうしているあいだにも、南マヌでは一人、また一人と兵士たちが死んでいく。会議がはじまってから一体何人死んだ? ここでは血の匂いも、断末魔のうめきも、単なる書類上の数字でしかない。高官たちはだれ一人としてあの死体の山を見たことがないのだ。一度斬りあいのまっただ中に連れて行ってやりたい。マチュルク軍を倒すには、彼らの資金源を絶つことがなんとしても必要なのだ。でも俺には、事なかれ主義の官吏たちが、たがいに片棒を担ぎあっているようにしか見えない。

アシュラムは他人事のように話しあいに参加しないリュージュをにらんだ。

なにか言え! ずっと、はりぼてのように座っている気か!

シャンタンがその視線に気づいて、王に話しかけた。

「陛下。近衛隊長は目の前の敵を憎むあまり、過ちを犯そうとしています」それからアシュラムにむけて、「お若いの。物事をなんでも善と悪とにわけて、片方を抹殺しようとするのは稚拙な手段だ。制裁しあえば争いになるが、馴れあえば平和だ。人の心から邪を取り除くことはできぬ。ならばそれを受け入れて、操るのがよい。白黒はっきりさせず、灰色のままのほうがよいこともある」

シャンタンは仙人のような面持ちで教えをたれた。

あきれてものも言えなかった。ふざけるな。

「私の話が理解できないのなら、南部に戻られたほうがよろしいのでは? 指揮官殿」

シャンタンがそう言うと、老人たちのあいだで笑いが巻き起こった。
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