16章 片目の男 (3/3) ~ 拷問者

「そこまでして殺したい俺を、拷問にかけるために生かしておくなんて、よっぽど魔石のありかを知りたいんだな。シャンタンは、石を手に入れても、王に渡す気はないだろう? 彼のことだから、懐に隠し持っていて、なにかの取り引きの材料にでもするつもりなんじゃないか?」

「さあな……」イスタファは縛り終えた縄の切れ端を放して顔を背けた。手のひらで顔を拭い、少し涙ぐむように鼻をすすった。

「事の重大さをわかってるのか? 国が滅びるかもしれない」

すると今度はむき直って鼻で笑った。

「国が滅んでも、俺の人生が終わるわけじゃない。俺とおまえじゃ働いてる思考回路が違うんだよ。前から合わねえと思ってたが」

イスタファはなにかに急かされたように、懐から小さな円筒型の金属容器を取り出し、蓋を開けた。それを鼻に突っこんで軽くあごをあげ、中のものをすすりあげる。アシュラムはその動作を見ただけで、容器の中身がなんなのかわかった。ブルーライトだ。さっきからイスタファの様子がおかしかったのは、ハザーンやモナンを殺したことに罪悪感を感じていたからではなく、薬がきれて禁断症状が出ていたからだ。薬を吸った直後は目をつむって恍惚となり、しばらくすると、心地よく酔ったような表情で振り返った。

やっぱり、彼は根っからの殺し屋だ。情や感傷なんてものは、そもそも持ちあわせていないのである。命令されたことを実行するだけだ。

アシュラムはできるだけ驚きを顔に出さずに話しかけた。

「……合うことだってあるさ。よく考えてみろ。秘密を知った人間を、シャンタンが生かしておくと思うか?」

イスタファは陶然となってしまって、ちゃんと話が頭に入っているのかどうかわからない。

「薬のことで脅されてるんだろう? 逃がしてくれたら、俺がなんとかしてやる」

「ワイアードみたいにか? よく言うぜ。奴は死んだ。プルナークもだ。おまえはいつもそうだ。一見有能そうに見えるが、肝心なときに肝心な人間を守れない無能な男さ。無駄話はもう終わりにして、さっさとやるべきことをはじめようか。魔石をどこにやった?」

アシュラムは無表情のまま黙りを決めこんだ。

「右耳も切り取ってもらいたいみたいだな」

イスタファはナイフを抜いて、アシュラムの右のこめかみにあてがった。意識を半分夢の世界に漂わせているような目つきで、

「なあ、色男? 吐くネタを持ってるってのは幸せなことなんだぜ。俺の左目は、十二のとき、戦場で敵兵に捕まったときにえぐり出された。尋問じゃなくて、ただのお遊びでさ。クソどものおかげでハクがついた。ずーっと前から思ってた。おまえの目は、綺麗だよなあ……」

アシュラムは歯を食いしばった。

眼帯の男は、刃を前後に引いて、耳のつけ根にわざとゆっくり切れこみを入れながら、ずっと歪んだ笑みを浮かべていた。