18章 無駄な努力 (3/4) ~ レネの兵器

「『神王なんていなくったって、人なら毎日たくさん死んでる』その通りだ。勇敢で善良な人間がつぎつぎと死んでしまって、腹黒で厚かましい人間ばかりが生き残って栄華を極めてる。おかしいよな。でも俺は後者のほうだ。だから今こうしてここに座ってる」

玉座の肘掛けに腰掛けたまま、皮肉たっぷりに笑った。

「これでもちょっと前までは不正なんてせずに、筋を通してやってきたんだ。でも一度暗殺されかけて、自分のやり方には限界があると気づいた。内務調査の仕事をしててわかったことをネタに高官を揺すったら、自分の身を守れたし、いい金にもなった。石はプレゼントしてもらったし、おまえを金持ちにしてやってもいいよ」

「俺が言ったのは冗談だ。本気でやるなんて、どうかしてるよ」

「おまえにそんなこと言われたくないね」

見下したような口調だった。

こちらを見つめるアシュラムの緑眼には、邪悪な光が宿っている。傲慢な笑みのむこうに、怒りとも憎悪ともつかない、身の毛もよだつような悪意を感じた。今まで旅していて一度も見たことがない表情だった。

これまでにも会話の節々に自惚れを感じることはあったが、アシュラムはいつも俺たちに対して優しかった。こんなことをしていて平気でいられるはずがない──そう思ってしまうのは、俺が奴の演技に完璧に騙されていたからなのか?

今目の前にいるのは、別人みたいだ。

カラスは、自分を敵視するようなアシュラムの視線から、目を離せなかった。

「俺たちを助けたのはなんだったんだ? 助けたと思ったら殺して……わけわかんねえ……。なんで……なんでララのこと殺したんだよ? おまえにも懐いてたじゃねえか。母親に楯突いても、かばって、助けようとしてたのに」

健気な姿を思いだしただけで、カラスは涙ぐんでいた。

俺はこんな男のために、ララを一人きりにしたのか?

「殺した?」

アシュラムは心外そうに問い返した。

「知らねえのか……? さっきララが死んだ。おまえらのせいで」

納得の行かない事実を突きつけられたかのように、アシュラムの表情が曇る。それから、仲間に問い詰めるような視線を送った。

「私じゃない」

リュンケウスは平然としらを切った。

一方、アシュラムの心は揺れ動いているようだった。

カラスはその様子を見てかすかに笑い、涙を拭った。そして武器商人を指差して言った。

「結局、おまえはこいつに利用されてただけなんだ」

「違う」

「こいつは儲けたいだけで、おまえの理想なんかなに一つわかっちゃいない。わかったようなフリをしてるだけだ。用済みになればおまえのことも殺す」

「人聞きの悪い、私は一度はトゥミスを救った英雄だぞ」リュンケウスは弁解した。

「ヴァータナであったこと、ハザーンから少し聞いた。おまえは酷い目にあいすぎて疲れてるんだ。こいつにそそのかされて、とんでもないことやらかしたけど、本当はいい奴なんだよな?」

アシュラムは答えない。

「一緒に帰ろう。全部捨てて最初からやり直すんだ」

カラスはそう言って手を差しのべた。自分の口からこんなに寛容すぎる言葉が出てきたことに驚いていた。

だがアシュラムは迷いを締め出すように、きっぱり言った。

「やり直す気はない」

そして、二本さした刀の片方を鞘ごと帯から抜き、床を滑らせた。

カラスの足もとに届いたのは、見覚えのある刀だった。

「おまえのだ」

アシュラムからもらった刀だ。

「けじめをつけたければ取れ」

横で見ていたリュンケウスは、信じられないという表情をした。

「なにも決闘なんかしなくても……」

「口出しするな」

邪険に扱われて、リュンケウスは気を害したようだ。ほかにいくらでも殺す方法があるのに、わざわざ敵に自分の武器をあたえて決闘を申し込むなんて感覚が、理解できなかったのだろう。

カラスも『殺す』か『殺さない』かということしか頭になかったので、真剣勝負なんて考えていなかった。
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