18章 無駄な努力 (3/4) ~ レネの兵器

刀を取るのをためらっていると、アシュラムは言った。

「怖じ気づいたなら、逃げてもいいぞ。また酒でも飲んで忘れろよ」

扉は開け放たれたままだ。外の街では破壊と殺戮が絶え間なくつづいてる。服も手もまだ血にまみれで、生々しい感触が残ったままだった。カラスの鼓動は速くなり、リュンケウスは落ち着かない様子で成り行きを見守っている。

アシュラムはひたすら冷酷な口調で決断を迫った。

「みじめに生きながらえるか、今ここで潔く死ぬか、好きなほうを選べ」

カラスは血と汗で汚れた手を服で拭い、街で買った自分の刀を抜いて、差し出された刀を蹴った。

「死ぬのはおまえのほうだ」

アシュラムも刀を抜き、玉座から離れて構えをとった。

「俺の刀は名のある職人に鍛えられた名刀だ。そんな安物で、折れても知らないぞ」

おたがいに刃をむけ、にらみあう。

カラスの構えはアシュラムに教えられた通りの構えだ。奇跡が起きなければ勝てる見込みはない。

でも、奇跡を起こす方法がないわけじゃない。勝負を受けたのは自滅するためではなく、勝てる算段があったからだ。

先に仕掛けたのはカラスのほうだった。雄叫びをあげながら斬りかかり、アシュラムの目前に魔法の火花を散らした。目をくらませて、その隙を攻めるつもりだった。

しかし、迎え撃つ剣豪はその場に立ったまま、的確に刀を振るった。

安物の刀は、忠告通りあっさり一刀両断されてしまい、折れた刃が宙を飛んだ。その刃が床に落ちる前に、カラスは斬られていた。

熱い、と感じた。

つづけざまに、折れた刀を手から弾き飛ばされる。

自分の体を見ると、胸から脇腹まで赤い裂け目が入っていた。でも目くらましが効いて切りこみが浅かったのか、即死はしなかった。

ナイフを抜いて刺そうとしたが、アシュラムに手首をつかまれ、止められてしまった。アシュラムは刀をリュンケウスにあずけ、両手を使って力ずくでその手をこじ開けようとしている。カラスは抵抗しながら相手にしがみついてずるずる体勢を崩し、床に膝をついてしまった。自分の体を支えていられなくて、最後にはアシュラムにしがみつきながら仰向けに倒れた。

詰まった排水口のように、口から血をゴボゴボ吐き出す。

アシュラムは取りあげたナイフ投げ捨て、立って刀を受けとった。

「今楽にしてやる」

垂直に立てられた刀の先端が、心臓の上で止まる。

胸を刺すならナイフでもできたのに、どうしても自分の刀で始末をつけたいようだ。

カラスは血をこぼしながら口を動かした。

「なんだ?」

構えを解いて近くで聞き取ろうとしたアシュラムの腕を、危険を感じたリュンケウスがつかんで引き止めた。だがアシュラムは気に入らなそうに手を振りほどき、死にかけている男のそばにかがんで耳を近づけた。

「なにを言い遺したい?」

カラスはアシュラムの黒髪にそっと手をのばし、

「裏切り者!」と叫んで、あらんかぎりの力でむしった。

すかさずリュンケウスが死に損ないの脇腹に蹴りを入れ、二人を引き離した。カラスはそのまま蹴って蹴って蹴りまくられ、壁も手すりもない床の終わりまで引きずられると、ゴミのように突き落とされてしまった。
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